ロジックツリーとピラミッドストラクチャー
前回のエントリーに続き、先日受けた新人研修で学んだ内容について。
ロジックツリー(以下、LT)とピラミッドストラクチャー(以下、PS)。この二つについては知っていたけれど、共に下のような樹形図の形をしていることから同じようなもんだ程度の認識でしかなかった。*1
しかし、この二者には明確な違いが存在しており、その違いも分からないようでは各々の本質を理解しているとは言えない。そんな状態で使ってしまってもその道具を使いこなせるわけがなく、当然目的も達成できない。というわけで、両者の本質を整理し、理解するためにメモメモ。
- LT
この手法を一言で表すと、「MECEを意識して、上位概念を下位の概念にトップダウン式に分解していくこと」となる。簡単な例で言えば、高校数学で学ぶ「場合分け」なんかもLTに当たる。ビジネスの世界での用途としては、「問題発見」と「問題解決」の二種類がある。まず、「問題発見」の例から見てみると、
■A社のコストを削減する
●変動費を削減する
・原材料費を節減する
・販売チャネル・販促費を削減する
・物流費を削減する
・商品購入費を削減する
●固定費を削減する
・人件費を削減する
・間接部門を合理化する
・遊休・不要資産を売却する
・金利を削減する
と言った具合に、コスト削減をMECEに切り分けていくことで、問題がより具体化・明確化され、どのポイントに焦点を当てればよいかが分かる。問題を解決する際にテーマを分解せず、漠然と「コストを削減するためにはどうすればよいか?」と考えていると焦点がぼやけ、的外れな解決策を提示してしまうことになりがちだが、LTを用いることでそのようなミスを防げるのだ。
さて、先程の例では問題が細かく分解されたが、例えば人件費を削減することが最も改善感度がよいと判断されたとしよう。これによって、コスト削減という問題の焦点が人件費削減に絞り込まれたわけだ。そうなると次にやるべきは、どのように人件費を削減すべきか策を講じることである。ここで、LTのもう一つの使用方法である、「問題解決」が活かされる。実際に行ってみると、
■人件費削減
●人数を減らす
○管理職の人数を減らす
○管理職以外の人数を減らす
●一人当たりの人件費を減らす
○全員の人件費を減らす
○一部の人だけ人件費を減らす
△管理職だけ人件費を減らす
・管理職だけ人件費をある期間減らす
・管理職だけ人件費を今後ずっと減らす
△管理職以外だけ人件費を減らす
のようになり、具体的な解決策を見出せるのである。ここで注意すべきは、全ての要素をひたすらに分解していくとキリがないので、ポイントを絞れてきたら、その要素だけを分解していくということだ。この例で言えば、管理職の人件費が高いために人件費が膨らんでいるということが分解していく過程で分かってきたため、この部分に焦点を絞って、分解を進めている。
- PS
LTがトップダウン式だったのに対し、こちらはボトムアップ式である。具体的な情報や観察事項から上位の概念としてのメッセージを抽出していく形式が採られている。したがってPSを用いることで、複数の情報からどのように結論を導き出したかという論理展開を構造化することができるわけだ。よって、PSには「本人が、論理の妥当性をチェックしやすくなる」と「考えを伝えられた人間が、相手がどのような論理に基づいてその結論を出したのか容易に理解できる」という二つのメリットが生まれる。そのため、PSはビジネスの世界において、円滑なコミュニケーションを目的として用いられる。例えば、以下のような具体的情報と観測事項があるとする。
・現在既に5億円程度の規模に縮小している。
・今後年間10%程度のマイナス成長が見込まれる。
・A事業に必要な技術は当社では傍流の技術である。
・当社の強みである小売チャネルへの影響力が意味を持たない。
・上位二社が圧倒的なシェアを占めている。
・上位二社との間にユニット当たり5%の物流コスト差がある。
・上位二社との間にユニット当たり10%の調達コスト差がある。
・上位二社との間にユニット当たり15%の生産コスト差がある。
・当社は大手法人顧客に対するマーケティングノウハウが貧弱である。
・顧客は大手法人顧客がメインで、厳しいディスカウントやアフターサービスを要求している。
・差別化が難しく、プレミアム価格を実現することはほとんど不可能である。
・大手法人顧客には我々のブランドイメージが訴求しない。
これらを踏まえて、「A事業から撤退すべき」だと言われても、その人がなぜそのような結論に至ったかの論理過程が不明瞭である。そのように主張された側としては、納得もいくまい。これではコミュニケーションとして不十分である。そこで、PSを用いて、情報を構造化してみると、次のようになる。
■A事業から撤退すべき。
●極めて見通しの暗い市場である。
○現在既に5億円程度の規模に縮小している。
○今後年間10%程度のマイナス成長が見込まれる。
○顧客は大手法人顧客がメインで、厳しいディスカウントやアフターサービスを要求している。
●競合が極めて強く、低い収益性に甘んじなくてはならない。
○上位二社が圧倒的なシェアを占め、当社との間に埋めがたいコスト差がついている。
・上位二社との間にユニット当たり5%の物流コスト差がある。
・上位二社との間にユニット当たり10%の調達コスト差がある。
・上位二社との間にユニット当たり15%の生産コスト差がある。
○差別化が難しく、プレミアム価格を実現することはほとんど不可能である。
●当社の強みが活かせない。
○一般消費者向けに培った当社の資産が活用できない。
・大手法人顧客には我々のブランドイメージが訴求しない。
・当社の強みである小売チャネルへの影響力が意味を持たない。
・当社は大手法人顧客に対するマーケティングノウハウが貧弱である。
○A事業に必要な技術は当社では傍流の技術である。
だいぶ論理展開が明瞭化したことが分かるだろう。では、どのようにしてPSを作っていくのか。それには次の3ステップがある。
- 具体的情報や観察事項の書き出し
- グルーピングとメッセージの抽出
- トップダウンでの論理性チェック
第2ステップと第3ステップについて説明する。まず第2だが、ここでは書き出したパーツをMECEを意識してグルーピングしていく。そして、グループごとに上位概念を抽出する。今回の例で言えば、
・現在既に5億円程度の規模に縮小している。
・今後年間10%程度のマイナス成長が見込まれる。
・顧客は大手法人顧客がメインで、厳しいディスカウントやアフターサービスを要求している。
→極めて見通しの暗い市場である。
といった具合にメッセージを抽出している。ここで注意すべき点が、メッセージの抽出とは事実の整理で終わってはダメで、さらに自らの解釈を加える必要があるという点である。つまり、グルーピングされた情報に対して、「SO WHAT?」と問いかける必要があるのだ。事実の整理で終わるならば皆一様なメッセージとなるが、解釈とは十人十色にできるものであるため、人によって抽出されるメッセージが異なってくるわけだ。そのため、ここでは各人の創造性が問われることになる。
さて、このようにしてメッセージを抽出していき、最終的な結論が得られたところでPSが完成したかのように見えるが、これで満足してしまってはいけない。その後でこの論理展開が正確であるかどうかのチェックをする必要があり、それが第3ステップに該当する。ここでは、抽出されたメッセージに対して「WHY?」と問いかけることで、論理展開に考え漏れや論理の飛躍がないかを判断していく。ここまで行うことでようやくPSが完成したことになる。
最後にLTとPSのまとめ。
- 目的:LT(問題発見/解決)・PS(コミュニケーションの円滑化)
- 形式:LT(トップダウン)・PS(ボトムアップ)
- 手法:LT(MECEに分解)・PS(「SO WHAT?」でメッセージを抽出/「WHY?」で論理性チェック)
*1:今回は簡便のため、樹形図を用いず、簡略的な表し方をしている。